ブログ -診察室より-

乳がん検診 考 ―自己検診の利益と不利益―2016.09.16

前回の流れなのですが、自己検診に不利益はあるでしょうか?自分でするだけだから自己検診には不利益はないんじゃないか、と考える向きもあるかと思います。

利益と不利益の考え方、米国ではより徹底していて、自己検診は現時点では不利益の方が大きいとされ、推奨されていません。「異常を感じたら受診」でいいということです。

ただ、日本では米国と事情が異なる部分もあり、そもそもそう断定してよいのか、との思いもあります。

日本ではどうかと調べてみると、日本乳癌学会では40歳以上の方は専門機関での定期的な検診に加え、月に一度の自己検診を行うように勧めています。また、40歳未満の方も自己検診を行うのが良いとしています。

米国のようにいくつもの専門機関があるわけではないので、現状の日本での公式見解と考えていいかと思うのですが、もちろんこの推奨も米国がそうであったように、勧められなくなる可能性があります。

ここで疑問が湧きます。

症状を有して見つかる乳がんの症状の90%は「痛みを伴わないしこり」とされています。要は、「あれっ?」と思って受診するきっかけの多くが「しこりに気付いて、、」なのです。見つけるきっかけは「たまたま気付いた」だったり「パートナーから指摘された」だったり、もちろん「自己検診で気づいた」も入って来ます。

異常と気付くにはやはりしこりを自覚する必要があり、その為には過剰に反応しないように正しいチェック方法を覚えることが大切と思います。この「過剰に反応」が自己検診の不利益の一つになります。

僕自身がマンモグラフィの読影をご指導いただいたがん研有明病院の岩瀬拓士先生が、「本人が関心を持ってチェックする方が医師の視触診より異常に気づきやすい」と言っておられるのをネットで読みましたが、まったく同感でした。日常診療しているとかなり小さなしこりに気付いて来られる方があります。

受診の契機がやはりしこりの自覚である以上、定期的かたまたまかは別として、普段から関心を持って触れることで過剰に反応することなく、以前は無かったしこりに気付くことが出来ます。

当院の診察室にも自己検診用のキットが置いてあります。ご希望の方は申し出てもらうと「乳がんってこんな風に触れるんだ」っていうのを感じてもらえます。

タレントの山田邦子さんも自己検診で乳がんを発見されました。山田邦子さんいわく、触った感じは「肉まんの中に梅干しの種を触れたような感じだった」と言ってみえました。今まで聞いた中では一番良い表現だなと思っています。

そんな感じ、と覚えておいて下さいね。

もう一つよくある間違い。

乳房を鷲づかみにつかんでしまうのはNGです。こうすると多くの場合、乳腺そのものをしこりと触れてしまいます。触診は指の腹で上から押さえるようにして触れるのが正解です。

乳がん検診 考 ―乳がん検診における利益と不利益―2016.09.12

今日は、最近よく聞く乳がん検診における利益と不利益について書いてみたいと思います。

乳がん検診の利益とは「検診によって乳がんの死亡率が下がる」ことです。言い換えれば、放っておいたら命を落としたであろう乳がんを、命に影響を与えない段階で見つけた場合「利益」とされます。

では、不利益とは、、、

前回の項でも書きましたが、マンモグラフィも超音波検査も「影」を見ています。この「しこりの影」、パッと見て明らかな良性、明らかな悪性もありますが、オーバーラップしている部分が実は結構多いのです。がんのように見えて良性だったり、良性のようだががんだった、というケースがあります。この為、「要精査」というふるいにかけて絞り込みを行います。

これをわかりやすい数字で説明します。

1000人の方が乳がん検診を受け100人の方が「要精査」とされます。そして精密検査の結果3人の方にがんが見つかりました。あとの97人の方はがんではありませんでした。3人のがんを見つけるために97人のがんではない人を含めてふるいにかける必要があるのです。

これ、一般的にはまずまず良いとされる乳がん検診の数字です(実際には100人の数字はもう少し低い方が良いのですが、、)。

一方で、例えば1000人が受け150人が要精査となり、4人の方にがんが見つかった検診があるとします。

考え方によっては、より多くの方にがんが見つかったんだからこの検診の方がいいのではないか、と思うかも知れません。でもこの場合、その為にがんではなかった146人の方が本来なら必要でなかった精密検査を受けることになってしまいます。この部分が乳がん検診の不利益です。

一般的には150人の方が要精査となる乳がん検診はよろしくないと考えられます。不利益が大きすぎるのです。これがあまりに大きいと利益よりも不利益の方が大きくなり、推奨できない、となります。

ただいずれにしても、3人の方のがんを見つけるために100人の方が要精査になる、というのが乳がん検診なのです。この数字のバランスに驚かれる方も多いのではないでしょうか。

あと、代表的な不利益として、放置しても命にかかわらなかったであろう乳がんが見つかり、治療することになった不利益、というのがあげられます。ただ、この見極めについてはまだ学会でも論争中で結論は出ていません。

その他には、これら一連の流れに伴う精神的な苦痛、という不利益も挙げられます。

乳がん検診 考 ― 乳がん検診の限界 ―2016.09.08

昨年の北斗晶さん、今年の小林麻央さんなど有名人の方の乳がん告白が続きました。

お二人ともまだ現場復帰できず闘病中です。有名人の告白であることに加え、北斗さんなどは毎年検診を受けていたのに進行した状態で発見されたことや、麻央さんは30代前半という若さでの進行がんということで、大きな衝撃を与えています。それに伴う乳がん検診の限界について書かれたものも見受けられたりします。

乳がん検診の限界として非常に早く進行する乳がんの存在、という問題があります。今回はこの件ではなく、検査自体の限界について書いてみます。

乳がんは皮膚の中にあります。現時点で主流となっているマンモグラフィも、公的検診への導入が検討されている超音波検査も、正常の乳腺が映し出される中で、その中に存在する「正常ではない影」を探す作業をします。

マンモグラフィでは白く映し出される正常の乳腺の中で、より白く映される異常な影を探していきます。雪原の中でゴルフボールを探す作業、と例える方もありますが、僕はどちらかと言えば白い雲の中に隠れているUFOを探すイメージに近いです。

雲には様々な形があります。びっしりと空を覆う雲もあれば、もこもこと盛り上がった入道雲もあります。まばらな雲もあります。雲の色も白一色ではありません。微妙なグラデーションがあります。このあたりは超音波検査のイメージに近いです。正常乳腺も雲のように色々です。そんな中に悪いUFOが隠れています。

まばらな雲に隠れたUFOを探すのはたやすいですが、大きな入道雲の中に隠れた小さなUFOを探すのは時に困難です。

ここに乳がん検診の限界があります。マンモグラフィも超音波検査もすべての乳がんを見つけることは出来ません。でもなるべく見つけられるように努めています。

何回かに分けて、乳がん検診に関するお話しを書こうかと思っています。

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