ブログ -診察室より-

「朝の光の中で」 その6(最終)2018.12.12

ホテルの人はガラスのコップをきらめかせる、その美的な効果を計算して、その場においたのでは、おそらくないでせう。

わたくしが美しいと見たことなども、知ったことではないでせう。

そしてまた、私自身もその美しさをおぼえ過ぎて、今朝はどうかなどといふ心の習はしにとらわれて、朝のガラスのコップとながめますと、もういけません。

もっとも、詳しくはなります。

底を上にして伏せた、その円い底のひとところに、きらめく星をつけてゐると、わたくしは言ひましたが、そののち度重ねてながめてみますと、見る時間によって、見る角度によって、光りの星は一つではなく、幾つもあることがありました。

コップの胴にも光りの星がついてゐることもありました。

それでは、底の縁に星一つとしましたのは、わたくしの見まちがひ、思ひちがひであったのでせうか。

いや、一つの時もあったのです。

幾つもの星のきらめく方が一つの星だけよりも美しさうでもありますが、わたくしには、はじめに一つの星と見て美しかった方が美しいのです。あるひは、文学にも人生にもこのやうなことはありませう。